中谷 宇吉郎は、日本の物理学者、随筆家である 北海道帝国大学理学部教授、北海道大学理学部教授などを歴任した。
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中谷 宇吉郎(なかや うきちろう、1900年(明治33年)7月4日 - 1962年(昭和37年)4月11日)は、日本の物理学者、随筆家。位階は正三位。勲等は勲一等。学位は理学博士(京都帝国大学・1931年)。
北海道帝国大学理学部教授、北海道大学理学部教授などを歴任した。
自身の研究を含め、科学を一般の人々に分りやすく伝える方法としても随筆をよくした。著書には『冬の華』『立春の卵』など。「雪は天から送られた手紙である」という言葉を残した事も知られる
本文内容見本
5 イグアノドンの唄
――大人のための童話―― 中谷宇吉郎
カインの末裔《まつえい》の土地
終戦の年の北海道は、十何年ぶりの冷害に見舞われ、米は五分作か六分作という惨めさであった。豊作でさえ米の足りない北海道のことであるから、この年の冬は、誰《だれ》も彼も皆深刻な食糧危機におびやかされた。
それにこの冬は、例年にない珍しい大雪であった。毎日のように、暗い空からは、とめどもなく粉雪が降りつづき、それが人々の生活の上に重苦しくおおいかぶさっていた。この雪に埋《うずも》れた不安な生活の上に、陰鬱《いんうつ》な日々がただ明け暮れて行くのを、じっと我慢して春を待つより仕方がなかった。
私たち一家は、この冬を、羊蹄山麓《ようていさんろく》の疎開先で送った。此処《ここ》は有島《ありしま》さんの『カインの末裔』の土地であって、北海道の中でも、とくに吹雪の恐ろしいところである。「吹きつける雪のためにへし折られる枯枝がややともすると投槍《なげやり》のように襲って来た。吹きまく風にもまれて木という木は魔女の髪のように乱れ狂った」というのは、有島さんの有名な描写である。この荒涼たる吹雪の景色は、今日も少しも変らない。そしてこの無慈悲な自然の力に虐《しいた》げられている人間の姿もまた、往年の名残りを止《とど》めている。
終戦の年の冬は、この自然の猛威の外《ほか》に、今一つ食糧危機という恐ろしい脅威《きょうい》が加わっていた。見渡す限りの土地は雪に埋れている。吹雪の日には、雪までも白くはなく、死んだような灰色である。葉の落ちた闊葉樹《かつようじゅ》はもちろんのこと、雪に蔽《おお》われた針葉樹にも、緑の色は全然見られない。この一点の緑もない世界、満目《まんもく》唯《ただ》灰色一色の世界では、食糧の不安感が、ひしひしと人の心に迫る。「雪が解けて、たらの芽でも何でも、青いものが出て来るようになれば」と、人々は遠い春をはるかに望んで、力弱い溜息《ためいき》をもらす。
北海道の長い冬休みを、子供たちとこの疎開先で過《すご》した。遊び道具も本もない疎開先の生活で、とくに連日の吹雪の夜など、子供たちはよく私に話をせがんだ。幸い薪《まき》だけは豊富にあったので、どんどんストーヴにくべて、その周囲に皆が寄りそっていた。勢《いきおい》よく燃える薪の音が、戸外の激しい風の叫びをわずかに押えて、生命の営みを辛うじて表象しているというような夜が、毎晩つづいた。電燈《でんとう》はもちろんうす暗かった。凄《すさま》じい風の音につつまれながら、それは妙に気の滅入《めい》る沈黙の世界であった。
代表作品
I駅の一夜
アラスカ通信
アラスカの氷河
イグアノドンの唄
ウィネッカの冬
おにぎりの味
科学と文化
桂浜
かぶらずし
硝子を破る者
九谷焼
黒い月の世界
ケリイさんのこと
名作速読朗読文庫vol.550中谷 宇吉郎全集1読上機能付きProfessional版
名作VOL 件数 作家 作品名 カテゴリー/文字数/文字量
550 1 中谷 宇吉郎 I駅の一夜 小説 4791 中
550 2 中谷 宇吉郎 アラスカ通信 小説 16485 大
550 3 中谷 宇吉郎 アラスカの氷河 小説 2985 小
550 4 中谷 宇吉郎 アラスカの氷河 小説 10824 大
550 5 中谷 宇吉郎 イグアノドンの唄小説 11361 大
550 6 中谷 宇吉郎 ウィネッカの秋 小説 4517 中
550 7 中谷 宇吉郎 ウィネッカの冬 小説 3920 中
550 8 中谷 宇吉郎 おにぎりの味 小説 1329 小
550 9 中谷 宇吉郎 面白味 小説 1088 小
550 10 中谷 宇吉郎 貝鍋の歌 小説 1841 小
550 11 中谷 宇吉郎 科学映画の一考察 随筆 1577 小
550 12 中谷 宇吉郎 科学と文化 随筆 4041 中
550 13 中谷 宇吉郎 桂浜 随筆 968 小
550 14 中谷 宇吉郎 かぶらずし 小説 726 小
550 15 中谷 宇吉郎 硝子を破る者 小説 7125 大
550 16 中谷 宇吉郎 簪を挿した蛇 小説 10424 大
550 17 中谷 宇吉郎 九谷焼 随筆 7251 大
550 18 中谷 宇吉郎 黒い月の世界 小説 31957 大
550 19 中谷 宇吉郎 『ケプロン・黒田の構想』について 随筆 3651 中
550 20 中谷 宇吉郎 ケリイさんのこと随筆 2333 小
合計冊数 20 合計文字数 129194
名作速読朗読文庫とは
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